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分娩の三要素とネットの噂を考える

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  • 投稿の最終変更日:2022-04-16
  • 投稿カテゴリー:blog

「●●をすれば、お産はどんどん進むから!」という妊婦さんが飛びつきたくなるキャッチーな文句。

ネット上でよく見かけます。

しかし、分娩はそんな単純なことではないです。
アロマ分娩の時も、私たちセラピストがコントロールできるような領域ではない、ということを常々感じています。

分娩には3つの要素があり、これらがすべて働くことでお産が進みます。

(1)娩出力:
「陣痛」=子宮の自発的・規則的な収縮
「怒責力」=ママの息む力

(2)産道:
「軟産道」=子宮頸管(子宮口)、膣などの柔らかい部分
「骨産道」=骨盤

(3)胎児(+付属物):
「胎児の大きさ」
「回旋」=胎児は頭の向きを何度か変えながら産道を通る
「胎勢」=いわゆる逆子か、頭を下にしているかという体勢
「胎位」=通常、顎をひいて体が丸くなっているので、頭頂部から出てくる

この3要素の健全性に加えて、より自然な(医療介入の少ない)出産を目指すなら、「体力的要素」「精神的要素」も望まれます。

ネットの噂①「瞑想と呼吸法でスルっと産まれるから!」
緊張と不安感から解放して、産道の開口を阻害する要因を減らすことを目的としていると思います。
まず陣痛時にリラックスすることはとても大切であります。ただ(2)の軟産道に対して多少の影響を与えるかもしれませんが、これだけでスルっと産まれると考えるのは無理があります。

ネットの噂②「よもぎ蒸しでお股を温めれば、一発で産まれるから!」
これも瞑想と一緒で、(2)の軟産道へのアプローチかと思われます。
ただ、産痛が増強してきたら、加温しすぎると気分が悪くなり嘔吐する方も出てきます。

ネットの噂③「分娩の前に骨盤を緩めておけば、安産になるから!」
(2)産道の骨産道はリラキシンにより緩みと可動がありますが、骨盤の緩みがすべてではありません。
間違っても、児頭骨盤不均衡(骨盤径が胎児に対して小さい)と言われた方に、何が何でも経膣分娩とこだわって、骨盤を緩めてどうのこうのしようとは思わないでください。そこは医療の領域でセラピストの介入する分野ではありません。

ネットの噂④「骨盤底筋鍛えて(緩めて)おけば、簡単に産まれるから!」
骨盤底筋群は随意筋(自分の意思で動かすことができる筋肉)ではありますが、三層に分類されるうちの特にインナーにある筋は、その実感が感じられずに、妊娠経過とともに脆弱になりがち。妊娠中から骨盤底筋を意識することは必要で、分娩時の(1)娩出力の怒責の際にはよいと思います。

ネットの噂⑤「ジャスミンの精油は嗅いだだけで、どんどんお産が進むから!」
ジャスミンの芳香成分は、ベンジルアセテート、安息香酸ベンジル、リナロール、フィトール、セドロールなどで、どの成分がというよりもそれらが混在することで、陣痛促進作用があると言われています。

アロマセラピストとしては(1)娩出力の陣痛に対してとてもよく作用します、と言いたいところですが、700件のアロマセラピー分娩の経験を積んだ今、客観的に発言するとあまり効果は期待できません。これはジャスミングランディフローラムもサンバックも一緒です。もしも、「効果があった」とすれば、たまたま偶然だったのでしょう。

アトニン(陣痛促進剤)やラミナリア桿(子宮頸管拡張する医療機器)などを使用しても、場合によっては数日かかったりするので、「精油でお産が進む!」のであれば、とうの昔に医療に取り入れられているはず。

というわけで、分娩の3つの要素のうちの1つにアプローチしたところで、「一発でお産は進む!」「安産になる!」と断言するのは安直すぎるのではないでしょうか。

そして、ここからがもっともお伝えしたいこと!

しかしながら、どれもムダ!と否定するものではなく、たとえプラセボ効果であったとしても、産婦の分娩に対する満足感向上につながるなら、意味はあると思っています。

私たちセラピストが分娩に介入する意義は、医療的な効果を期待することではなく、医療を受けているクライアントをサポートすることにあるからです。

 

参考:「病気が見える 産科」医療情報科学研究所(編集)メディックメディア出版
「アクティブバースサイエンス」飯田俊彦著 メディカ出版

(このコラムは2016年2月に執筆したものを加執しました)

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