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妊娠中・産後のホルモン分泌とトリートメント

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  • 投稿の最終変更日:2022-04-16
  • 投稿カテゴリー:blog

「産前産後のホルモンの変化と、それに伴う効果的なトリートメントが知りたいです」
というご質問をいただきました。

『妊娠するとホルモンバランスが乱れる』

そんな言葉をよく聞きます。
この ”乱れる” というのは、どういうことなのでしょうか。
まずは、周産期のホルモン分泌について、改めて考えてみたいと思います。

セラピストの方ならご存知のとおり、非妊娠時、女性ホルモンは月経周期に大きく関わってきます。

女性ホルモンとは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを指します。
その名まえが表すように、卵胞(卵巣にある卵子を含んだ細胞)と黄体(排卵後、排卵によって破れた卵胞が変化したもの)で生産されています。

この女性ホルモンをコントロールしているのは、視床下部ー脳下垂体ー卵巣系。
間脳にある視床下部は、血中のホルモン量をチェックして、必要に応じて、性腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌して、脳下垂体に指令を出します。そして、指令を受けた脳下垂体は、今度は卵巣に指令を送るため、性腺刺激ホルモンを分泌します。指令を受けた卵巣では、周期的に卵胞ホルモンや黄体ホルモンの分泌を繰り返すというメカニズムです。

非妊娠時であれば、この月経周期に合わせて、トリートメント内容や精油の選択を変えていくこともとてもよいと思います。

それでは、妊娠中はどのように変化をしているのでしょう。
妊娠中、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌は、卵巣ではなくて、胎児胎盤系に移行されます。胎児胎盤系とは、胎児と胎盤が一つのユニットとなり、始めて完全なホルモン分泌が行われるため、こう呼ばれます。(胎盤で生産されて→胎児側の副腎・肝臓で変換され→再び胎盤で変化するようなシステム)

妊娠中、これらの女性ホルモン値は、非妊娠時のように周期的に増減を繰り返すことなく、出産にむけて、上昇を続けていきます。妊娠末期にもなると、卵胞ホルモンは、非妊娠時と比べて、血中に100倍、尿中に500−1000倍もの量が分泌されます。

また、女性ホルモンが胎児胎盤系で分泌されるため、妊娠中は、脳下垂体から卵巣に指令を送る、性腺刺激ホルモンは抑制されています。

そして、出産から産後。
分娩第3期、赤ちゃんが娩出された後に、胎盤も娩出されてようやく分娩が終了となります。

産後、母体は胎盤がなくなったことにより、卵胞ホルモン・黄体ホルモンは、もとの卵巣で生産されるようになり、3−4日で非妊娠時の値まで、がくんと減少します。また、抑制されていた性腺刺激ホルモンの分泌も再開されます。

100倍、1000倍であった卵胞ホルモンは、たった数日で元のレベルまで変動するのです。

また、特筆すべきは、脳下垂体から分泌されるプロラクチンとオキシトシンで、いずれも乳汁分泌をコントロールするホルモンです。
プロラクチンは、実は妊娠初期からその値は上昇して、分娩時に最高値となり、その後は下降していき、授乳しない場合で2−3週間、授乳中でも3−4ヶ月で基礎分泌量は非妊娠時の値まで戻ります。赤ちゃんの吸綴刺激(乳首を吸う刺激)によって一過性で上昇するようになります。授乳中、排卵を抑制するのも、このホルモンの作用によるものです。

オキシトシンは、近年、「愛情ホルモン」などと呼ばれて注目されていましたね。
オキシトシンの生理作用はとても多彩なのですが、この時期の特徴としては、子宮筋の収縮作用と、乳腺の枝分かれした先、腺房の周りの細胞を収縮させて射乳反射(母乳を出す反射)をおこすことです。プロラクチンとはことなり、吸綴刺激だけでなく、赤ちゃんを見たり、考えたり、においを嗅いだりしただけでも、オキシトシン値は上昇し、射乳反射はおこります。

ながーーくなりましたが、コンクルージョン。

産前産後、ホルモンバランスは “乱れている” 訳ではないのです。
必要なものを、必要なタイミングに、必要な分だけ、ママと赤ちゃんのために常に変化しながら分泌しているのです。

よって、そのような時期に、私たちセラピストが「ホルモンバランスを整える」必要はなく、従ってホルモン分泌を意識したトリートメントも必要ないと考えています。
強いて言うなら、ホルモン分泌を妨げる「ストレス」「不安感」「恐怖心」「過度の疲れ」「睡眠不足」などの因子を緩和できるようなトリートメントをおこなうことがよいのではないでしょうか。

また、産婦人科にて産後トリートメントをおこなっているセラピストの方は、分娩後の急激なホルモン変化に伴うことが一因であるマタニティブルーには、「分娩の振り返り」が有効だとも言われています。非医療者の立場であるからこそ、より患者様に近い立場でお話を伺うことができるのが、私たちの強みでもあります。
ひと言、「お産はいかがでしたか?」と聞いてみるのも有効だと思います。
もしそこで、重要なキーワードが出てきたら、助産師・看護師の方に報告することも忘れないようにします。

まあ、それにしても、読む気も失せるほど長いこと。笑
ご参考になれば幸いです。

(このコラムは2015年9月に執筆しました)