受講生からよくいただく質問の一つに、
「妊婦さんには、どんなアロマが好まれますか?」
というものがあります。
結論から申し上げると、妊婦さんだからといって、共通して好む精油があるわけではありません。
周知の通り、妊娠すると、においの感じ方が変化しやすくなります。
● 今まで好きだった香りが苦手になる
● 少しのにおいでも強く感じる
● においを嗅いだだけで吐き気がする
といった変化を経験する方は少なくありません。
このような嗅覚の変化は、妊娠4~6週頃から始まり、特につわりの時期と重なることが多くみられます。
では、なぜ嗅覚は変化するのでしょうか。
興味深いことに、「嗅覚そのものの性能」が著しく向上していることを示す、一貫した研究結果はありません。
現在では、実際ににおいを検知する能力、いわゆる嗅覚閾値が大きく変化するというよりも、脳がにおいを強く、不快に、あるいは印象的に受け止めるようになることが関係していると考えられています。
妊娠初期には、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、エストロゲン、プロゲステロンなどのホルモンが急激に変化します。
これらのホルモンは、中枢神経系にもさまざまな影響を及ぼすことが知られており、嗅覚情報を処理する脳の働きにも関与していると言われています。
さらに、嗅覚は大脳辺縁系と密接につながっています。
大脳辺縁系は、情動や記憶だけでなく、吐き気や自律神経反応にも関与する領域です。
そのため、同じ香りであっても、「良い香り」ではなく、「気持ち悪い」「受け付けない」といった反応につながりやすくなると考えられています。
また、進化生物学的には、腐敗した食品や有害物質を避けることで、母体と胎児を守るための適応反応だった可能性も指摘されています。
ただし、この仮説については、現在も研究が続けられています。
まあ、こうした変化を、
「お腹の赤ちゃんが、今必要な香りを教えてくれている」
「精油の波動と妊婦さんのエネルギーが共鳴している」
などと表現することもできます。
そのほうが神秘的ですし、何より話が早く丸くまとまります。
実際には、ホルモン、脳、体調、記憶、感情など、いくつもの要因が複雑に関わっているのですが、誰かを傷つけたり、安全性を損なったりしなければ、「科学的根拠がー」など無粋なことは求めず、スピリチュアルな表現にも寛容です、私も。
これが「天然だから安心」とか、「飲用水にいれてデトックス」などの明後日の方向に曲がってしまうと全力で否定しますが。
何よりもここで大切なのは、妊娠によって嗅覚に変化が起こるとしても、その現れ方には非常に大きな個人差があるということです。
ラベンダーを心地よく感じる方もいれば、受け付けなくなる方もいます。
さらに、同じ方であっても、昨日は心地よかった香りが、今日はキツく感じられることも、決して珍しくありません。
つまり、「妊婦さんには、この精油がおすすめです」という、一つの答えは存在しないのです。
精油選びに求められるのは、「個別性」です。
だからこそ、マタニティトリートメントでは、「今日は、どの香りを心地よいと感じますか?」と、その日の感覚を確認することが大切です。
香りの感じ方は、その方の体調、つわりの程度、睡眠、食事、心理状態などによっても変化します。
妊婦さんを一括りにして考えるのではなく、
「目の前にいる、一人の妊娠中の方の感覚を尊重する」
それこそが、安全で心地よいマタニティアロマトリートメントにつながると考えています。