マタニティトリートメントにおいて、とても多い主訴の「腰痛」。
カウンセリングでは、こんなやり取りが自然に交わされます。
「お辛いですよね。お腹が大きくなると、どうしても腰にきますよね。」
「お腹に負担のない範囲で、腰を緩めていきますね。」
穏やかで、共感的で、間違いのないお声がけです。一連の流れとしては違和感なし。
でも、クライアントへの説明としては正しいですが、もしセラピストもこの理解で留まってしまっていたら、臨床としてはちょっと浅いです。(感じ悪い)これでは「原因の核心」というよりも単に「現象の要約」に過ぎません。(重ねて感じ悪い)
少し視点を深めると、そこには
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- 張力バランスの再編
- 安定性低下に対する代償
- 神経系による防御的調整
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といった、変化が折り重なっています。
そしてその中心にあるのが、腰背部に広がる巨大なファシア構造「胸腰筋膜」です。この組織の状態こそが、妊婦さんの腰痛の大きな原因です。
胸腰筋膜とは、背中(広背筋)- 臀部(大臀筋)- お腹(腹横筋など)を繋いで、体幹を安定させるサポーターの役割をしている体の深層に位置する大きな膜です。単なる膜ではなく張力を伝達する機能的ネットワークでもあります。
イメージとしては、全身のバランスを黙って調整し続けている裏方さん。そしてこういう存在ほど、限界まで頑張ってから症状を出します。

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1. 張力バランスの再編
妊娠中にお腹が大きくなることで、
- 腹壁(特に腹直筋・腹横筋)が伸びる
- それに伴い胸腰筋膜が持続的に引っ張られる
この状態は、言ってみれば「伸びきったゴム」のようなぺらぺらな弾力性のない状態で、わずかな動作でも「痛っ!」というセンサー(侵害受容器)が反応しやすくなります。
カウンセリングで、
「そんなに動いていないのに腰が痛い」
という訴えにつながります。むしろ動いていないのに痛い時ほど、この状態が疑われます。
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2. 安定性低下に対する代償
出産の時に赤ちゃんをスムーズに出すために、骨盤まわりの靭帯を緩ませるホルモン(リラキシン)が、妊娠中から分泌されています。そうなると、妊娠中から骨盤の仙腸関節が緩んで安定性が低下します。
これに対して妊婦さんの体は、代わりの筋肉・筋膜の緊張を高めることで安定性を図ろうとします。
その結果、
- 胸腰筋膜の過緊張
- 滑走性の悪化
が現れて、腰の痛みや重だるさに繋がります。これは言ってみれば、安定性を確保するための防御反応です。
つまり体としては、
「緩めたい〜、でも緩めると体幹が不安定になる〜〜」
というジレンマを抱えている状態です。
もしここでセラピストが強圧でほぐしてしまったら、さらに防御が強まってしまいます。
マタニティトリートメントで、腰部への強圧NGな理由は、赤ちゃんのいるお腹を圧迫してしまうからだけではないんですね。
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ここで疑問が生じた方いらっしゃいませんか?!
「えっ?胸腰筋膜は深層にあるのに、強圧NGならアプローチ無理じゃね?」と。(ヤンキー設定)
でも大丈夫なんです!強圧や深い圧でなくても胸腰筋膜は緩めることができます。
ファシアは、皮膚直下の浅筋膜から、筋を包む深筋膜やその連続である胸腰筋膜、さらに内臓を包む膜まで、全身に連続する三次元的な結合組織ネットワークです。
なので、皮膚の滑走性を改善すれば、深層のテンションにも影響するという特性があります。
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③神経系による防御的調整
筋膜には筋肉よりも「痛みや刺激のセンサー(侵害受容器・機械受容器)」が存在します。
強い刺激は
- 交感神経優位❌
- 防御性収縮の誘発❌
につながる一方、穏やかな刺激は
- 副交感神経の活性化♡
- 筋膜トーンの低下♡
を促します。
特にマタニティトリートメントでは、安心感=組織の弛緩に直結するため、触れ方そのものが臨床的意味を持ちます。
目的は「筋をほぐす」ことではなく、胸腰筋膜の滑走性と張力バランスの再構築です。膜の滑走を取り戻す繊細なアプローチこそが、クライアントの腰痛を安全かつ効果的に軽減する鍵となります。
当スクールのマタニティアロマトリートメント講座では、「ゼロ圧でストレッチ」をする手技を練習していきます。
まぁ、相変わらず長いブログだこと…
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参考文献