多くの妊婦さんから、「会陰切開はしたくない!」という声はとてもよく聞かれます。
通常、助産師さんの手によって、会陰への負担を最小限に減らす会陰保護術をしながら、赤ちゃんはゆっくりと下降して生まれてきます。
それでも、どうしても切開しなければならないケースもでてきます。それは、このままいきむと、ビリビリに破けるほど重度の会陰裂傷になってしまう場合や、赤ちゃんのwell-beingの観点から早く出すことが必要とされる場合などがあげられます。
初産婦さんのほうが、切開率は高くなります。
切らない(破れない)ためには、会陰がびろーんと変幻自在に伸び縮みしてくれれば、、
というわけで、びろーんまでは行かずも、せめてちょっとでも会陰を伸びやすくしておこうという目的の下、妊娠中のセルフケアとして会陰マッサージが推奨されています。
会陰マッサージをおこなった妊婦さんと、おこなわなかった妊婦さんの産後を比較すると、
- 初産婦さんは会陰切開・会陰裂傷などの損傷が有意に少なかった
- 経産婦さんは差はなかったけれど、産後3ヶ月の時点での会陰部の痛みが少なくなった
とありました。また条件としては、
- 週に3回、4-10分程度(週4回以上おこなっても逆に効果減少→多くやればいいってものではない!)
- 妊娠34週以降から(文献によっては臨月から)
- 植物油などを使用する(事前にパッチテストをする)
- 比較として骨盤底筋群のトレーニングもしたけど、こちらは効果なかった
- 禁忌のケースもあるので、必ずかかりつけの産婦人科で確認してから開始
いくつかの文献をまとめるとこんな感じになりました。
ただし、「期待はできるけれど確実とは言えない」といずれの文献にも書かれていました。まぁ、産婦さんの個体差もあるし、会陰損傷には、赤ちゃん側の問題もあるので、それを踏まえた上で、マッサージをやる/やらないは決めていただいた方が良いですね。決して私たちが押し付けることのないようにします。
で!!ここからようやく本題。
受講生の方から「会陰マッサージによい精油を教えてください」というご質問をいただいたので、それにお答えしようと思って書き始めたはずが、前置きが長過ぎました。
なので結論を先に書くと、「ありません」なんです。
実は、一般的に「”会陰”マッサージ」と言われていますが、イラストの赤い点線部(会陰)の皮膚をマッサージするのではなく、緑の「腟口の会陰側」を広げるようにマッサージするのが、本来の会陰マッサージです。(→詳細なマッサージ方法は日本助産学会のこちらで!)
巷で広まる「会陰のオイルパック(会陰部にオイルを染み込ませたコットンを当てておく)」にはエビデンスは見当たらず、、
ただこの本来のマッサージ方法だと、腟の中にも指をいれるので、必然的にオイルも腟の中に塗布されます。
腟の中の粘膜部分は妊娠の有無にかかわらず、たとえ希釈されていても精油を塗布することは推奨されていません。ましてや妊娠中であればなおのことです。
理由としては、まずいずれの精油にも多かれ少なかれ「抗菌作用」があります。写真では、ディスクに含ませた精油によって菌(酵母菌)の繁殖を妨げる「阻止円」がはっきりと見られます。(抗菌アロマテラピー研究会の勉強会にて撮影)
よって、精油を入れることで、もしかしたらそこにあるべき善玉菌を阻害して、正常細菌叢のバランスが乱れてしまうかもしれません。他にも粘膜は精油成分の刺激による炎症が起こりやすいです。何よりも、精油は胎盤を通過することがわかっているので、赤ちゃんに対する影響も未知数です。
よって、おすすめする精油はありません、という結論になりました。そもそも精油そのものには皮膚を柔らかくする効果も、保護する効果もないので入れる理由がないんですよね、残念ながら、、
植物油は、ホホバ、オリーブ、スイートアーモンド、スクワラン、カレンデュラなど、いずれも差異はないようです。もちろん酸化した古いオイルや、何が混ざっているのかわからない怪しげーなオイルは使用厳禁です。
<参考文献>
- 日本助産学会ガイドライン2021「出産時に会陰に傷ができないようにするためにできることはあり ますか?」
- 堀内成子編集「エビデンスをもとに答える妊産婦・授乳婦の疑問92」2015年, 南江堂発行
- ロバートティスランド「精油の安全性ガイド」2018年, フレグランスジャーナル社
- 日本産婦人科医会 産婦人科ゼミナール 「会陰切開と満足度」
- IFA「エッセンシャルオイルガイドラインの適切な適用」