助産師さん向けのポストです。
精油には、
- 油に溶けやすい(親油性)
- 水に溶けにくい(疎水性)
- 常温で気体になる=空気中に蒸発する(揮発性)
という性質があります。
揮発性があるからこそ、LDRや陣痛室のような閉ざされた空間でも、次の産婦さんの邪魔をすることなく使用できるんですね。ただ揮発速度がゆっくりな精油もあります。サンダルウッド、パチュリなどの主にずしーんとくる重い香りのベースノートの精油が該当します。
いずれにせよ、精油を使ったあとはすぐに窓やドアを開けて換気をすれば問題ないです。テーブルなどについてしまったらエタノールで拭き取ります。
で、今回のお話は「水に溶けにくい」疎水性について…
今月の妊娠・分娩中のアロマセラピー講座にご参加いただいた助産師さんから、
「陣痛中に足浴で”ゆず精油”を使ったら足がピリピリした。どうすればいいですか?」
と言うご質問をいただいたのでここでシェアしたいと思います。
前述の通りに精油は水に溶けにくいので、この場合はゆずの精油成分が原液のまま足に触れてしまいピリピリと刺激したと思われます。
ゆずだけでなく柑橘類の精油に多く含まれる成分リモネンは、理科の実験でやるように発泡スチロールやふうせんを溶かすほど強力な刺激なんですね。
なのでお風呂に精油を入れる場合は、両者を乳化させる「界面活性剤(乳化剤)」を使います。お風呂用の乳化剤はアロマ専門店で購入できます。
足浴の場合も、本来なら乳化剤を使用したほうが安全安心ですが、そのひと手間が助産師さんにとって「わずらわしさを爆上げしてしまう」と伺ってから、あえて足浴で「乳化剤の使用を…」というお話は私もしていません。
精油の種類や濃度、産婦さんの肌質などによって臨機応変に対応していくことが望まれます。
乳化剤を使う場合は、入浴用でなくとも、ドラッグストアで手に入る「無水エタノール(99.5vol%=アルコールの濃度が99.5%)」が推奨されています。2020年6月のAEAJテキスト改訂で「無水エタノールと植物油にしか精油は溶けにくい」と見直されてから、グリセリンや塩、クレイなどは基材から除外されました。
余談ですが、このときの改訂で「精油を使用するときは事前にパッチテストする」という現実的に無理だよね、とアロマセラピストの誰もが思っていた項目も外れました。あのAEAJが勇ましい決断!
で話を「足浴で精油を使う場合の乳化剤について」に戻すと、
無水エタノールがない場合は、産婦人科なら必ずあるであろう消毒用エタノール(70vol%〜)でもシャカシャカと撹拌すれば混ざらないこともないかな、と。(←明言したくないときの典型的なDouble Negativeの例…)もちろん完全に溶解した溶液にはならないし、時間が経つとまた分離します。
なので少量の精油を足浴ですぐに使うなら、、という条件の下です。
まぁ、そもそも精油を入れなければピリピリのリスクはなくなりますが、精油を入れることによって、
- 疲労の軽減
- 呼吸数の安定
- 下肢深部温の上昇
などが期待できます。それ以外にも、「ローズ精油の足浴で、陣痛が進めば進むほど不安感がむしろ軽減された」という研究(比較対象としてお湯だけの足浴だと上昇した)もあるのでわずらわしくなく使えるなら使っていただきたい!
参考にしていただけたら幸いです。
<参考文献>
AEAJ機関誌No95, p5-6, 2020.3, アロマ環境協会
アロマテラピー検定公式テキスト 2020.6 改訂版 アロマ環境協会
Kheirkhah M 「Comparing the Effects of Aromatherapy With Rose Oils and Warm Foot Bath on Anxiety in the First Stage of Labor in Nulliparous Women」Iran Red Crescent Med J. 2014 Sep; 16(9): e14455.