妊娠すると、複合的な理由で下半身が冷えやすい状態にあります。
大きなお腹で下肢から心臓に戻る静脈還流が悪くなる、交感神経が優位になって抹消血管が収縮している、運動量の低下、姿勢の変化・・
妊娠中の「冷え」と「微弱陣痛」「分娩遷延=分娩が長引くこと」の因果関係や(中村ら,2013)「早産」「前期破水」との関連性(中村ら,2012)を示唆した論文もありますが、逆に「冷えに囚われ過ぎることも返ってストレスが溜まる」とおっしゃる専門家も多くいます。
私たちセラピストには「冷え」に対するこだわりがある方が多いと思います。
五本指ソックス、腹巻き、布ナプキン、中にはこんにゃく湿布などの「自然なお手当て」を推奨する方もいらっしゃいますよね。
私個人の意見としては、
陣痛中は温湿布(ホットタオルをラップで包んだものなど)を腹部や腰部に当てると「心地よい」「痛みが和らぐ」とおっしゃる産婦さんが多いので、分娩のケアに入るときは冷えに気をつけています。
ただし、妊娠中は「冷えは厳禁!」とは言いたくないと思っています。もちろんお腹をあえて冷やすようなことはオススメしませんが。
冷え性よりも、ストレスと切迫早産の因果関係の方が気になりますし、ましてや「冷えているから逆子になる」なんて迷信は、妊婦さんへの「脅し」だと感じています。
食べ物を湿布として使う「自然なお手当て」には、不自然さが否めません。
しかし、下肢のうっ滞(血液、リンパ液の滞り)についてはさまざまなトラブルに繋がるので循環を促していきます。
マタニティトリートメント講座の実技では、鼠蹊部リンパ節へのドレナージュ法と、「梨状筋」の位置をしっかりと確認して、ペトリサージュでほぐす手技をお伝えしています。
それにしても「冷え性(冷え症)」とはどのような症状を指すのでしょうか。
体温が低下することだとしたら、核心温度、外殻温度のどちらなのか、自覚はなくても冷え症と言えるのか、明確な定義がないので人によって解釈が違いますよね。
以前、ずっと切迫状態が続いていた妊婦さんがいました。
「冷えているのがいけない」と助産師さんに言われたことをきっかけに、靴下は2枚重ね、腹巻き、骨盤ベルト、体を温める食べ物・・・
思いつく限りの冷え対策をしてもいっこうに切迫が治らない。
自分自身を責め続けて赤ちゃんに謝ってばかりの妊娠生活。
「こんなママでごめんね(涙)」
しかし、出産した後の検査で、切迫の原因は子宮奇形にあったと判明したそうです。
とりあえず、冷えのせいにしておく風潮は、ときにして妊婦さんを傷つけることもあることを知り、それ以来、口にしないようにしています。
参考文献
- 中村幸代ほか、妊婦の冷え症と微弱陣痛・遷延分娩との因果効果の推定、日本看護科学会誌、2013/33(4)
- 中村幸代ほか、傾向スコアによる交絡調整を用いた妊婦の冷え症と早産の関連性、日本公衆衛生雑誌、2012/59(6)